NEWS

お知らせ

社長の福田を含む共同研究グループがヒト腸内細菌の一種が持久運動パフォーマンスの向上に貢献することを明らかにしました

慶應義塾大学先端生命科学研究所(所長 冨田 勝)の福田真嗣特任教授(順天堂大学大学院医学研究科細菌叢再生学講座特任教授・神奈川県立産業技術総合研究所腸内環境デザイングループグループリーダー・JST ERATO副研究総括を併任)と、アサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社(社長 佐見 学)の森田寛人研究員・狩野智恵研究員、青山学院大学(学長 阪本 浩)の内山義英教授・原晋教授らの研究グループは、共同研究成果として、ヒトの腸内細菌の1種である Bacteroides uniformis(バクテロイデス ユニフォルミス、以下 B. uniformis)(※1)が持久運動パフォーマンスを向上させること、また、この腸内細菌が栄養源として利用しやすい環状オリゴ糖であるαシクロデキストリンを摂取することで、ヒトの持久運動パフォーマンスも向上できることを明らかにしました。

腸内フローラ(※2)はヒトの健康に対して大きな影響を及ぼすことが知られていますが、運動能力との関連はほとんど明らかになっていませんでした。本研究では、青山学院大学 陸上競技部(長距離ブロック)に所属する長距離ランナーの腸内フローラを調べることにより、彼らの腸内には B. uniformis と呼ばれる腸内細菌が多く、その菌数は走行タイムと関連があることを発見しました。また、この腸内細菌を増やす効果があるα-シクロデキストリンを健康な成人男性が8週間摂取したところ、エクササイズバイクで10 kmを漕ぐために必要な時間が有意に短縮し、運動後の疲労感も軽減できることが明らかとなりました。さらに、B. uniformis は腸内での酢酸やプロピオン酸といった短鎖脂肪酸(※3)産生を介して肝臓での内因性グルコース産生を促進させ、持久運動パフォーマンスを向上させることが示唆されました。

本成果は、米国科学振興協会が出版する自然科学研究分野のオンライン学術誌「Science Advances」に1月25日付(現地時間)で掲載されました。

【本研究成果のポイント】

  • 日本人長距離ランナーの腸内には Bacteroides uniformis が多く、走行タイムと関連があることが明らかとなった。
  • Bacteroides uniformis は腸内で酢酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸を産生し、それらが肝臓での内因性グルコース産生を促進することで持久運動パフォーマンスの向上に寄与することが示唆された。
  • Bacteroides uniformis が栄養源として利用しやすい環状オリゴ糖であるα-シクロデキストリンを摂取することで、ヒトの持久運動パフォーマンスも向上できることが明らかとなった。

1.【研究の背景】

ヒトの腸内には多種多様な細菌が約40兆個も棲みついていると見積もられており、これらの細菌は腸内細菌と呼ばれます。腸内細菌で構成される微生物集団は腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれ、そのバランスがヒトの健康や疾患に大きな影響を与えていることが報告されています。トップアスリートの腸内フローラは、そうでない人々よりも多様性に富んだ腸内細菌で構成されていることが報告されていましたが、個々の腸内細菌による運動パフォーマンスへの関与やメカニズムなどは、ほとんど明らかになっていませんでした。

2.【研究成果の概要】

本研究では、研究趣旨を理解し協力の承諾を得た青山学院大学陸上競技部(長距離ブロック)に所属する48人の男性学生(以下、アスリート群)と、同年代の一般男性10人の腸内フローラの比較調査を行いました。調査の結果、アスリート群の腸内にはヒト腸内フローラの主要な構成細菌の1種である B. uniformisが多く棲息することが明らかとなりました(図1)。さらに、アスリート群のうち3,000mの走行タイムを提供した25人について、腸内フローラにおける B. uniformisの菌数(本研究では16S rRNA遺伝子1コピーを1菌数と定義)と3,000m走行タイムの関連を調べたところ、B. uniformis の菌数が多いヒトほど3,000mの走行タイムが早いという相関関係を見出しました(図2)。

(Morita et al., Science Advances, 2023よりCC BYに基づき改変)

B. uniformisは一般的にヒトの腸内に棲息する腸内細菌であることから、この腸内細菌が利用可能な環状オリゴ糖であるα-シクロデキストリンの摂取が運動へ与える影響を調べるため、運動習慣がある20~40歳代の日本人一般男性10人にα-シクロデキストリンを含むサプリメントを摂取してもらいました(α-シクロデキストリン摂取群)。その結果、摂取8週間後においてB. uniformisの菌数が摂取前と比較して有意に増加することが明らかとなりました(図3)。さらに、α-シクロデキストリン摂取群ではエクササイズバイクで10kmを漕ぐために必要なタイムが摂取前と比較して約10%短縮し、このタイムはプラセボ(※4)を摂取した群(11人)のタイムと比較しても有意に早いタイムでした(図4)。また、α-シクロデキストリン摂取群ではエクササイズバイクを50分間漕いだ直後の疲労感が摂取前と比較して有意に低下していました(図5)。これらの結果から、B. uniformisが好むα-シクロデキストリンの摂取は、ヒトの持久運動パフォーマンスや運動後の疲労感を改善させることが明らかになりました。

持久力論文図3-5.png

(Morita et al., Science Advances, 2023よりCC BYに基づき改変)

また、B. uniformis による持久運動パフォーマンス向上のメカニズムとして、この腸内細菌によって腸内で産生される酢酸とプロピオン酸が運動中の肝臓におけるグリコーゲン分解と糖新生(※5)を促進し、運動に必要なグルコースを全身に供給していることが示唆されました(図6)。

持久力論文_図6.png

Morita et al., Science Advances, 2023よりCC BYに基づき改変)

3.【今後の展望】

本研究では、ヒト腸内フローラを構成する主要な腸内細菌の1種であるB. uniformis が持久運動パフォーマンスに関与していることを初めて明らかにしました。また、この腸内細菌が好む環状オリゴ糖を摂取することで、ヒトの持久運動パフォーマンスを向上できることも明らかになりました。これらは、B. uniformis をターゲットとしたプレバイオティクス(※6)やプロバイオティクス(※7)、オールバイオティクス®(※8) を用いることによってヒトの運動パフォーマンスを引き上げることができる可能性を示唆するもので、将来的にはスポーツ分野や飲食料品分野への応用が期待されます。

【特記事項】

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号:22H03541)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(JST ERATO)深津共生進化機構プロジェクト(課題番号:JPMJER1902)、日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)(課題番号:JP22gm1010009)、糧食研究会の支援により実施されました。

【用語解説】

※1) Bacteroides uniformis:ヒトの腸内に一般的に棲息する嫌気性グラム陰性桿菌。
※2) 腸内フローラ:ヒトや動物の腸管内に棲息する、主として細菌によって構成される微生物集団。
※3) 短鎖脂肪酸:短い脂肪酸の総称で、腸内細菌は酢酸やプロピオン酸、酪酸などを産生する。
※4) プラセボ:被験物質以外の組成を同一としたもの。
※5) 糖新生:糖以外の物質からグルコースを産生する経路で、主に肝臓で行なわれる。
※6) プレバイオティクス:ヒトの健康に良い影響を与える生きた微生物の餌となる成分。
※7) プロバイオティクス:ヒトの健康に良い影響を与える生きた微生物。
※8) オールバイオティクス®:どんな腸内環境タイプの人にも広くもれなく腸内環境タイプカバー率8割を超える素材混合物。


<文献情報>

【論文タイトル】
Bacteroides uniformis and its preferred substrate, α-cyclodextrin, enhance endurance exercise performance in mice and human males

【著者】
Hiroto Morita, Chie Kano, Chiharu Ishii, Noriko Kagata, Takamasa Ishikawa, Akiyoshi Hirayama, Yoshihide Uchiyama, Susumu Hara, Teppei Nakamura, Shinji Fukuda

【掲載誌】
Science Advances

【掲載日】
2023年1月25日(米国現地時間)

【DOI】
10.1126/sciadv.add2120


【問い合わせ先】

(研究に関すること)
福田 真嗣(ふくだ しんじ)
慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任教授
Tel: 0235-29-0528 E-mail: sfukuda[at]sfc.keio.ac.jp

森田 寛人(もりた ひろと)
アサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社
Tel: 0297-46-4093 E-mail:hiroto.morita[at]asahi-qi.co.jp

(報道に関すること)
慶應義塾大学先端生命科学研究所 渉外担当 五十嵐、塩澤
Tel: 0235-29-0802 Fax: 0235-29-0809 E-mail:office[at]ttck.keio.ac.jp

アサヒグループホールディングス株式会社 広報部門
Tel:03-5608-5126

順天堂大学 総務部文書・広報課 担当:副島、長嶋
Tel:03-5802-1006 Fax:03-3814-9100 E-mail:pr[at]juntendo.ac.jp

神奈川県立産業技術総合研究所
研究開発部 地域イノベーション推進課 担当:雨森、高橋
Tel:044-819-2031  E-mail:rep-kenkyu[at]kistec.jp

青山学院大学 政策・企画部 大学広報課
Tel: 03-3409-8159
https://www.aoyama.ac.jp/companies/interview.html

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-3514-8404 Fax:03-5214-8432 E-mail:jstkoho[at]jst.go.jp

(JST事業に関すること)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部ICT/ライフイノベーショングループ
今林 文枝(いまばやし ふみえ)
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068 E-mail:eratowww[at]jst.go.jp

※ご取材の際には、事前に上記までご一報くださいますようお願い申し上げます。
※本リリースは、文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会、日本スポーツ協会運動記者クラブ、
神奈川県政記者クラブ、山形県政記者クラブ、鶴岡市記者会等に送信させていただいております。
※上記の[at]は@に置き換えてください。